「最終手段」

ー試し読みー

薄暗い部屋の一室で、LEDライトに照らされる中、一人の男は目を瞑っていた。彼は右足を立てた状態で、自らの膝を枕代わりにして眠りについている様子だった。寝息は深く、時折呼吸の止まっている様子からも疲労が感じ取れる。  男の顔から考察できる年齢は20代半ばといったところか。しかし、白髪に染まった頭や、瘦せこけた手足からは50代とも60代とも見て取れる。  男は、寝息に交じって時折数式を口ずさんでいる様子だった。どうやら寝言らしい。  実際、男のいる部屋は薄暗くて周囲を見渡すことこそ難しいものの、所狭しと巨大な水槽が立ち並んでおり、あちこちに数式の書かれた紙が散らばっている様子だ。恐らく何らかの研究並びに実験室という役割を果たしているであろう部屋だが、清潔感は一切感じられない。彼のおやつだろうか。殻付きのナッツ類が大量に散らばっていた。  そんな男のいる部屋に、甲高い声が響き渡る。 「FBIがそこまで来ています」  薄汚れた部屋に蹲っていた白衣の男は、クマのできた瞼を二度三度痙攣させる。そんな彼の手元には、雀によく似た生き物が降り立った。 「博士、どうかお逃げください」

 

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